2011年7月1日金曜日

テニスのフォアハンドにおける身体操作の歴史


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スポーツの上達は基本的にうまい人の動きを真似て再現することである。
昔はどのようなフォームが最適かというのは基本的に個々の感性に依存していたためその傾向はより強い。
スポーツバイオメカニクスでも基本的にはトップの選手の動きを抽出して再現性がある情報として取り出すことであり.
それは同じだ。

その情報の抽出の仕方に歪みがあったり、間違ったものが基本として定着してしまうこともよくあることだ。
日本は過去の情報を尊重しすぎるのでその傾向が高かったりする。
(そういうのがガラパゴス野球とかガラパゴステニスとか言われたりもする)

トッププレイヤーを真似た次世代のホープが、またそれを変える。そしてそのホープはトッププレイヤーに
なる。という連鎖によって
フォームやプレイスタイルは変化していく、そういった意味でもフォームとその身体操作
の歴史的変化を見ていくと非常に面白い。



テニスではスクエアスタンスであったものがオープンスタンスへと移行してきている。

身体的にはほぼ移動の力で打っていたものを体幹の回旋をつかった動きに比重を置いたものに変わっている。
より短い時間かつ小さな動きでパワーを出すための流れでもある。

オープンスタンスが登場し発展してきたフォームという観点で歴史的な流れを考えてみるとおもしろそうなので
見てみる。

このきっかけは
youtube にある下の動画だ


ボルグとフェデラーのフォアハンドの比較である。
身体操作という観点でみると両者を比べると雲泥の差がある。
野球のような競技ではこういったことは少ない。

昔の偉大な選手は現在の選手より
身体操作という面でみると上だったりすることは野球ではある。時代により
競技で求められるものが変化するから変わった部分はあるにしても
テニスでは常に新しい選手のほうが明らかに身体操作はうまい傾向にある。

身体操作が変化していった歴史を見ることもでき
非常に興味深い。





フォアハンドで威力のあるボールを打つという点で大事なことは
股関節の回旋の可動範囲を大きくしそれを短時間で行うことだ
それを体幹に伝達し肩周りの力といっしょにすることでインパクトの瞬間に力を集約させる。

おおざっぱにまとめると以下の大事な点は三つになる。

  • 股関節の回旋がするどく角度が大きく回旋するか
  • 体幹のよじれきちんと股関節の回旋の力を伝達できているか、体幹のしなりが起きているか
  • 肩の回旋でゼロポジションになっているか、可動範囲をしっかりつかえているか

これが時代とともに順次解決されはじめていっている点が非常に面白い。

実際に比較に入る。

ボルグとフェデラーの比較

まずはボルグとフェデラーの比較画像フェデラーの動きは上の3点がすべて解決されているという点で非常に分かりやすい。


ボルグの動きとしては
まだ移動の力で打っていること。これはスクエアスタンスの移動だけの力で打っていたショットの流れから来ていると考える
ポジションに入って

膝で移動をしてあわせてそこから股関節の回旋が始まる。
この動きの過程でフェデラーはほとんど下半身は変化がないが、ボルグは体を膝でボール方向に移動している。
ボルグはこの移動の力が大きい。しかし膝が折れすぎている。これがのちの股関節の回旋の邪魔になっている。

詳しく述べると、(わからないって人は読み飛ばしてください)

下半身をつかってすむーず回旋するには左足がスムーズに離れないといけない。それがないということは
姿勢反射でリセットがかかって力が逃げてしまうということだ。基本的に重心が足首 膝 股関節にまっすぐ
のったまま回旋をスムーズのすることが理想である。膝が折れると膝の回転半径が大きくなり股関節の柔軟性が
必要になる。その柔軟性があれば問題がないがそれがないと体にリセットがかかり回旋の力が逃げてしまう。


またこれを考慮して打ち方であるためテイクバックもそれも合わせ大きくなっている。
移動をすることでボルグの場合は右太ももにさらにためをつくっている。フェデラーにはそれがない。
これは移動によるメリットである。しかし、常にこれが必要だということは迅速に打つことには弊害だ。
一枚目から2枚目の過程では、股関節にさらにテイクバックが入っている感じである。



股関節の回旋とは俗に腰を回すということだ。英語では尻を回すともいう
解剖学的(ってほど微細ではないが)には

右股関節は 外旋し続ける-> 内転
左股関節は 内旋 ->  外旋

という動きで実現する。伸展という股関節を伸ばす動き含まれるが大きい動きは
上に書いたものだ。

外旋とは膝を外側に回すような動き。内旋は膝を内にいれるような動きだ。
外転とは膝を回転させないで膝を外に開く動きである。
内転とは膝を回転させないで足を閉じる動きだ。

右股関節で言えば、右足側を固定して股関節を外旋させると、骨盤が反時計回りで回転するこれが腰を回すと俗に表現されるもの。


インパクト手前であるがフェデラーがより右股関節の外旋で回しているのに対して
ボルグは膝の屈伸の力で打っている。この段階では股関節の回旋が始まっており
膝の屈伸は位置を調節する以外の意味はない。

ボルグは股関節の回旋を体幹への伝達ができていないのと股関節に柔軟性がもともと
ないのに大きな可動範囲が必要とする回旋を行うとしているので力が逃げてしまっている。
これは前の段階で股関節がひらきすぎていることも関係がある。

またフェデラーは胸を張って見えるがこれは股関節の回旋をしっかりし体幹のひねりをきちんとつかっているため
体幹(もしくは胸郭)のしなりがでている。よく胸を張って打てというのはいろんな競技で言われるが
それは意識しても意味がなく、正しい動きと胸郭の柔軟性によりもたらされる。

ボルグの場合は股関節の回旋に上体が引っ張られていないため上体が前にかぶったままである。股関節の回旋を
上体に伝えるためには胸郭を柔軟にし、腰からアバラ骨の当たりを決してそらされないように固定するような動きが
大事である。その感覚はボルグの場合はあるようだが(上体が前にかぶっているため)そのインパクトまでの過程で
胸郭をしならせるような動きを作る方法がわかっていないように見える。

体幹のひねりが正しく使われるためフェデラーのほうが両肩のラインと右肩<->右肘のラインが一直線に近い。
より強いショットや回数を重ねるとボルグのような打ち方では肩肘の故障をおこす。

しかし、より一直線に近いということはラケットが遠くなり遠心力がかかるため、ボルグの時代のほうがラケットが重かった
ことを考えるとそれに適応するためとも考えられる。

左肩から右肘までのラインが一直線でインパクトの瞬間まで右肩が前にでてないことが大事である。ボルグの場合ははやく肩が前にでてしまっている。



ボルグは左股関節のたたみ込みが甘いため(この操作は非常に難しい)
上の股関節の回旋の際に左股関節は内旋-> 外旋という動きを説明したが
このたたみ込みが外旋である。このたたみ込みができないと骨盤がまわりきらず回旋が固定されてしまって
右股関節の力が前か植えにのびてしまう。

当然骨盤はみな繋がっているので左側でまわらなければよりするどく回らないし右骨盤が上に浮いてしまう
それをよく表している。
(これはボルグが移動しながら打っていることにも関係がある
前方に移動しながら打っているので左股関節のたたみ込みができないのでより伸び上がるということ
)

さすがに20年の変化は大きくまったく違うといってもいい代物だ。


アガシからの変化

ボルグからアガシ前の時代までは身体操作的にはそれほど大差がない。体力は当然ついただろうが
アガシのあたりから時代は動きはじめる。これは身体操作を見つめたものではなく
アガシの目指すもに対して最適化された際にそれが身体操作的な進化になったと考えられる点も
おもしろい。




この二つを見ると分かるのはボルグは膝で調節をして重心の移動をしながらあわせていたのをそれが無くなっていることだ。
また膝の大きな屈曲がない。
これはサーブ&ボレー全盛の時代に強く速いボールに反応するためには、膝で合わせるのは初動としては反応が遅すぎる。

なぜ遅いかというと、

筋肉によっては神経信号の伝達に時間がかかる。体幹に近い部分を初動とすればいいが膝で
合わせるような動きとするとそれは反応時間を遅くしてしまう。



そして無駄が多い。

それを解決するために、ポジションに入り右股関節に絞り(ため)を作り、そこからの回旋で合わせる動きになっている。

膝で合わせるという悪しき風習がなくなっている。

以下はインパクト直前。


股関節の回旋は行われたみ込みも(左股関節の内旋外旋という動き)すこしできはじめているが、アガシ自身にも股関節の柔軟性に問題が
あるためか、テニスの基本を作る段階ではボルグのような動きで、プロに近い段階で部分的に修正したからかもしれない。
それが回旋の角度が小ささに現れている。

体幹のひねりが弱いことと。股関節が回旋しきっていないため、胸郭のしなりがなく、
フェデラーに比べると胸の張りがなく肘が低い。ボルグよりもよくなった部分として
背骨を地面に対して垂直に立てるという行為を行っていることだこれによって体幹はボルグと比較するので
あれば、使えていることになる。

ボールの高さに対してどのように体で合わせるのかいうときに

* 膝で合わせる(ボルグ式)
* 肘で合わせる(アガシ式、まだこの方式の選手はたくさんいる。土居美咲以外のほとんどの日本人選手もそう)
* 体幹(上体)の傾きで合わせる(フェデラー、ナダル等のトッププロ)

と3種類ある。

最初に膝であわせる

体幹をうまく使い、そして膝でボールをあわせないということを考えたとき
ボールの高さを肘で合わせているのがいいと感覚でつかんだためでないかと考える。

(股関節を回旋させるためには重心移動の力が必要であり小さな重心移動では打てなくなる)


肩の回転は常に同じで肘だけで合わせると
肘から右肩を経由して左肩までのラインが一直線にならなくなり故障の原因となったり(ゼロポジションが作れない)
威力が落ちていく。アガシはこの動きだ。移動で膝の動きが使えないときに代替行為か自然とあみ出した
方法ではないかと思う。


そして体幹の傾きで合わせるのはフェデラーがわかりやすい。

だいたいのボールで
フェデラーの動きは基本的に両肩のラインの延長につねに肘がくるため
現状ではもっとも最適なのは、フォアハンドの際は股関節の回旋がすぐできる姿勢でポジションに入りボールの高さは上半身の傾きで合わせるような動きだ
と考えられる。


大雑把に考えると歴史的な流れでは

オープンスタンス化  
-> 膝で合わせるのではなく腰で合わせ体幹の力を使って打つ   
-> ボールの高さに体幹の傾きで合わせ、胸郭のしなり、肩の回旋をさらに最大限に活用する

という流れだ。完全ではないまでもアガシによってフォアハンドストロークの身体操作そしてテニスが
大幅に変わり始めたのは確かだ。

全英、全仏と見ていてやはり非常に気になるのはテニスプレイヤーは
野球選手に比べて股関節と胸郭が非常に固い選手が多いということだ。

これは若年層の練習カリキュラムに問題があるのではないかと思う。
そういう訓練をしてないということだ。

そういう意味でナダルの育成の過程というのは異端だが、なぜ彼がああなったのか
というのは多くの育成に大きなヒントがある。

フォアハンドに威力のない選手はだいたいサービスも弱い。
それはサービスでは胸郭をおもいっきりしならせて打つが、
胸郭のしなりが出せてない選手は総じて威力が足りない。(フォアハンドよりもサービスは
より股関節の回旋よりも胸郭のしなりのほうが影響を及ぼしやすいため)

胸郭のしなりがでていてもサービスで股関節の回旋が使い切れてない
選手も多い。これが使いきれるとアンディロディックのような凄まじい威力が
出るんじゃないか?という選手も多い。

テニスの基本的な身体操作はフォアハンドとサービスに集約される。
その関連性と特性による変化バリアントのつけ方で決まるがそこがまだ
全般的に行われていない印象がある。

フォアハンドの歴史的変遷としておもしろいのはもう一つある
それはナダルへ至る過程だ。基本構造はフェデラーと変わらないが
身体操作としてナダルのほうが明らかに優れていて力を使えている。

フェデラーがあの動きは才能も大きく作用しているがフェデラーにできないことが
ナダルにはありなぜああなったのか、そして素質、才能面ではフェデラーより
絶対劣っていた存在であろうナダルがフェデラーよりも体が使えているのか?

とか色々考えるとおもしろいのでまた考えてみる。




















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